今回は,数字が書かれたカードを使った数字マジックを取り上げます.
数字マジックといえば,「ある数を頭に思い浮かべて,その数に1足して,~」のように,ある数を \(x\) と置けばタネが分かる単純なものが多いですが,今回取り上げるものはそうはいきません.
マジシャン「ここに,1,2,3,4,5の数字が書かれた5枚のカードがあります.私は目隠しをした状態で,今からあなたには以下の手順でカードを残り1枚になるまで減らしてもらいます.
Step 1:好きな2枚のカードを選ぶ.
Step 2:それらの和と積を計算して,その結果を足し合わせる.
Step 3:Step1で選んだ2枚を捨て,その代わりにStep2で計算した数字が書かれたカードを1枚追加する.(この操作により,カードの総数は1枚減る)
Step 4:Step1からStep3までの操作を残りのカードが1枚になるまで繰り返す.
それでは,最後に残ったカードの数字をあててみましょう!」
試しに一度操作を繰り返しましょう.

初めにカード 2, 5 を選びます.和が 7,積が 10 でそれらを足した数が 17 なので, 2, 5 のカードを捨てて 17 のカードを新しく追加します.

次にカード 3, 4 を選びます.和が 7,積が 12 でそれらを足した数が 19 なので 3, 4 のカードを捨てて 19 のカードを新しく追加します.

現時点で残ってるカードは 1, 17, 19 です.次にカード 1, 19 を選びます.和が 20,積が 19 でそれらを足した数が 39 なので 1, 19 のカードを捨てて 39 のカードを新しく追加します.

最後にカード 17, 39 を選びます.和が 56,積が 663 でそれらを足した数が 719 なので 17, 39 のカードを捨てて 719 のカードを新しく追加します.
以上の操作から最後に残ったカードの数字は 719 となりました.
目隠しをしたマジシャン「ずばり,最後に残ったカードの数字は 719 ですね!!」
なぜマジシャンは,最後に残ったカードの数字 719 を一度もどのカードを選んだのかを見ることなく,当てることができたのでしょうか?
マジシャンがカードを選んだ人の心を読んだわけではありません.実は,どのカードをどの順番で選んだとしても,最後に残る数字は 719 になるのです!
それではなぜ選び方によらずに最後に残るカードが 719 になるのでしょうか?
ここで重要になる概念が「不変量」です.
いま,選ぶ二つのカードの数字を仮に \(a, b\) として考えましょう.

選ぶカードを \(a, b\) とすると,新しく追加するカードは \(a+b+ab\) と書けます.

ここで,次のような数値を計算します.それは,残っているすべてのカードの数字に1を足して,それらを掛けた数です.
捨てるカードと新しく追加するカードだけに着目すると,
捨てるカード:\((a+1)(b+1)\)
追加するカード:\(a+b+ab+1\)
これらが等しいことは展開すれば容易にわかります.

このことから,好きな2枚のカードを選んで捨て1枚追加するという操作の前と後で,先ほど考えた,残っているすべてのカードの数字に1を足して掛けた数は変わらないことになります.
このようにある操作の前後で変わらない量や数値を不変量といい,何が不変量になるかは問題の設定ごとに正しく見つけ出す必要があります(場合によっては,不変量がない,もしくは考えてもあまり意味がないこともあるでしょう).
今回の不変量は,残っているすべてのカードに1を足して掛けた数であり,一番最初に残っている5枚のカードで不変量を計算すると,
$$(1+1)\times(2+1)\times(3+1)\times(4+1)\times(5+1)=720$$
で変わることはありません.特に最後の1枚のカードの数字に1足した数も 720 になるので,最後の1枚のカードの数字は,カードを選ぶ順番に関わらず 719 となるのです.
もし,最初のカードが1,2,3,4の4枚であれば,不変量は,
$$(1+1)\times(2+1)\times(3+1)\times(4+1)=120$$
で,最後の1枚のカードの数字はこれから1を引いた 119 になります.
不変量を扱った問題は,数学オリンピックなどでよく見かける形式でありますが,不変量という概念を知っているから解けるようになるわけではありません.不変量を正しく設定するのはなかなか至難の業です.
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